

シェーン・コッター
アメリカ合衆国 / 教師
腰に銃を携えてマントを羽織り、ウェスタンブーツで音を立てながら颯爽と歩いてきた彼はふと立ち止まり、帽子のつばを上げて額の汗を拭った。湿気の多い九州の真夏に到着した今回の主人公である『先生』は、故郷ニューメキシコの乾いた気候の方がまだマシだと感じていた。
彼、こと「先生」はラテンアメリカからアジアへと世界中を巡り、終の職処を探していた。いくつかの国で試行錯誤を繰り返した後、遂に、日が昇る国「日本」でのALT (Assistant Language Teacher 外国語指導助手)の職を見つけた。
ALTの古参教師たちは、社会保険付きの最低月給25万円、家具付きの住まいと対等な契約などのウマい話をするだろう。実際に以前ALTで 働いていたという人から話を聞きつけた、先駆者に倣って特権を掴み取りたいと企む人が数多くいたし、教師としての経験や教養などは関係がなかった。
後に、経歴を問わずに英語教師として採用していたことに気付いたALT派遣企業は、泥棒男爵のように自身への咎めは一切無いまま、教師たちへの労働条件を徐々に悪くしていった。契約は会社側が社会保険料の支払いをしないで済むように変え、条項には泥棒男爵側には一切の責任がないというものまで加えられた。銀行強盗犯がメキシコへ逃亡するよりも早く、給与も減額されていった。
それでも先生は毎日、全身全霊を仕事に捧げた。学校教員たちが、うつむいたままの生徒たちに同じセッションを繰り返し聞かせ、おきまりの英文を日本語に訳させるだけに忙しい間も、先生は廊下やカフェ、放課後の体育館などで本当の英語の喋り方を教えた。楽しい活動を創り、クラブ活動に参加し、子ども達の声に耳を傾けて励まし続けた。実はこういうことが教育において一番大切なのだ。
しかし、先生がどんなに頑張っても泥棒男爵は素知らぬ顔だ。彼らは金勘定に忙しく、陰気な契約に嫌気がさして街を出た者の代わりを採用し、巧妙に仕組まれた組織を緻密に管理していた。本来、教師とは子供たちに対して責任を果たすべきなのだが、先生は自分自身の義務感にも苛まれている。もしこのままテープレコーダーのように意思も持たずに同じことを繰り返すことを良しとし、泥棒男爵によってチェス盤の上を歩かせ続けられるのなら、自分を映す鏡すら見たくないというのが事実だった。人として、教育という神聖な職業で誠実な暮らしができないのならば、その時は別の道に進む時なのでは、テキーラ代わりに焼酎を引っ掛けながら思った。
ちょうどその時、真なるウェスタン・カウボーイか?ピンストライプのスーツ姿のヘッドハンターが現れた。彼女は名刺を差し出し、先生のような真摯に経験を積んだ教師にとって、心躍るような機会について話した。「知っているかもしれないけど、私は今までに様々なオファーを受けたんだよ。」と先生は焼酎をぐいっと飲み干しながら淡々と語った。「でも、結局はどれも話が違っていたんだけどね。」と続けた。
彼が辺りを見渡すと、その部屋は失業した人々で埋め尽くされていた。他国の悪徳契約から逃れてきた人や、延々と求人を待ち続ける者、等々。長引く不況のせいで人々はパニックに落ち入り、全産業が落ち込んでしまったようだ。
善きもの、悪しきもの、そして醜きもの。それは今日の英語を学ぼうとする生徒たちであり、多くの身の程知らずの英語教員志望者、そしてALTたちから金を巻き上げる泥棒男爵たちだ。英語教育とは、安かろう、悪かろうでは結果が伴わないものなのだ。
では。先生はまた監獄へ引き返すべきなのか。泥棒男爵に立ち向かうべきなのか。それともさっさとニューメキシコに戻るべきなのか。ドォデショ?