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歌舞伎特集

本の伝統芸能か?!大衆娯楽か?!

<歌舞伎役者はラッパーだった!?>
2005年11月にユネスコの「世界無形文化遺産」に登録された日本の古典芸能、歌舞伎。博多座では定期的に公演が行われているから、福岡のひとにとっては歌舞伎を観劇する事はごく日常の風景…、と言いたいところだが、難しそうだったりなにかと敷居の高いイメージがあり、映画を観るように気楽にとはいかないみたい。でも本当にそんなに難しいものなの?

本来、カブキは「傾き」と書いた(歌舞伎という漢字は後から当てられたもの)。「異様な身なりや振る舞いをする」という意味で戦国時代の頃から盛んに使われた言葉らしい。そして世間の秩序に反し、伝統や権威に反発して、自己を強く主張して生きていくの人のことを「かぶき者」と呼んでいた(てことは今でいうならラッパー!?)。
歌舞伎の元祖は江戸時代初期、出雲の阿国(おくに)ら演じた「かぶき踊り」。これは女が男装し、男が女装して、舞台で色めいた戯れをする、というかなり過激な内容だったとか。これが庶民の間で大人気となり、他にも多くの女かぶき一座ができた。が、幕府は風紀を乱すという理由で女性の舞台出演を禁止。以降「かぶき」は男だけで演じられるものになった…とさ。

こうして誕生した初期の歌舞伎は「物珍しさ」と「役者へのミーハー的熱狂」で受け入れられた庶民の娯楽だったのだ。この辺りを知りたければ、市川染五郎主演の映画「阿修羅城の瞳」をご覧あれ。多くの女性達が黄色い声で歌舞伎役者に声援を送ったり、劇作家が「いかに観客にウケける芝居を作るか」に情熱を傾けるあたり、フィクションとはいえ伝統芸能と呼ばれる歌舞伎が当時は大衆演劇だったことがよく分かる。ついでながら、この映画を観る時は染五郎の立ち回りにも注目。その美しさといったら、やっぱり極上!ツウの方々には叱られそうだけど、実際のところ今だって歌舞伎ファンの基本はミーハー。「すてきー!」「きれいっ!」と役者にほれ込む世界。
また、観客は贔屓の役者の「ここぞ!」というきめ所で「成田屋っ!」など「待ってました!」「よっ日本一!」などの役者の屋号やかけ声をかける。観客と役者の息がぴったり合うことで、会場に一体感が生まれるのが“ライブ”の醍醐味(だいごみ)!

さらに人目を驚かせるカブキたる演劇「歌舞伎」だけあって、「ケレン」と呼ばれる仕掛けもいろいろ。素早く違う人物に変わる「早変わり」、宙を飛ぶ「宙乗り」、本物の水が使われる「本水」など、ビックリするような見所が満載だ。

「内容が分からない…」と不安なひとにはズバリ、坂東玉三郎の演目がお勧め。理屈はご無用。舞台に現れただけで、一面がぱっと明るくなるような華やかさ、ため息のでるような美しさ。仕草のひとつひとつが、艶(つや)っぽい。これで男ですから。
それから市川海老蔵の「助六」も分かりやすく、面白い演目。まさに当代一の色男という役柄が海老蔵にぴったり。ちょっとワルでつれない、だけど憎めない、そんな男性は今も昔もモテモテ。けんらん豪華な花魁(おいらん)の衣装も見所のひとつ。

400年の伝統、洗練された芸、これはやはり知れば知るほど面白くなる奥の深さ。でも最初はお気に入りの役者を見、きらびやかな衣装に圧倒され、様々な仕掛けに驚くこと。知識など無くたって夢中になること間違いなし!!!
よっ!千両役者!!華やかな舞台の立役者たち

最近ではテレビドラマや映画にも活躍の場を広げつつある歌舞伎役者達。その存在感たるや、格別なのは言うまでもない。舞台を一瞬で別世界に変えてしまう魅力、まずは基本中の基本から?!

・中村勘三郎(中村屋)
踊りのうまさは当代一との評判。テレビ出演も多いので歌舞伎を観たことのない人にもおなじみ。新作や新演出の歌舞伎づくりにも情熱を燃やし、串田和美、野田秀樹など現代演劇の作・演出家とともに、精力的な共同作業を続けている。息子の勘太郎・七之助も歌舞伎役者として活躍中。
・市川海老蔵(成田屋)
市川團十郎家の御曹司。若手No.1イケメン役者。歌舞伎はもちろん、テレビドラマや映画、舞台、CMとひっぱりだこ。2003年のNHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』では宮本武蔵を好演し、2006年秋には初主演映画「出口のない海」が公開予定。
・坂東玉三郎(大和屋)
今や「美」の代名詞とも言われる歌舞伎界きっての女形。フランスの有名な振付師M・ベジャールやポーランドの映画監督A・ワイダなど、海外の芸術家とのコラボレーションや、映画監督、舞台演出、演劇人養成私塾開設と幅広い活躍で「玉三郎の美の世界」を表現している。

歌舞伎役者への道
歌舞伎役者の家に生まれずとも、歌舞伎役者への門は開かれている。大幹部クラスの役者に弟子入りする、あるいは国立劇場の歌舞伎俳優研修生になるという方法があるのだ。日本の古典芸能ゆえ外国人歌舞伎役者という前例はないようだが、今後は相撲と同じように世界各国の人々が役者として活躍する日が来るかもしれない。

屋号
江戸時代、町人や役者は苗字を持つことが許されていなかったので「音羽屋」などの屋号を役者が自分で考えて出身地や信仰などから付けたらしい。役者の名前を呼び捨てにするのも失礼だが、「菊之助さーん!」では調子っぱずれになってしまうことから、屋号で声援を掛けるようになったのだとか。

歌舞伎役者はファッションリーダー

歌舞伎、特に女形の衣装は常に当時のファッションの先端。元禄時代(1680~1709年)に花開いた服飾文化の粋が、女形というスーパーモデルの舞踊を通して広まっていったとか。ところで豪華な花魁(おいらん)の衣装は今でも総重量約30キロ。昔の衣装はもっと重く「女形の役者は華奢で優しい顔立ちをしているけれど、酒を飲んで暴れたらこんなに恐ろしいものはない…」と言われていたとか。日々重い衣装をつけて演じる男性の体力が“女形の美しさ”を支えているんだね。

役に合わせて「顔をつくる」歌舞伎のメイク
歌舞伎の化粧では、顔の地の色が白塗りの場合は主役級の善人であることを表し、顔の地を赤く塗った「赤っ面」は悪人であることを表している。また歌舞伎の独特な化粧法に「隈取(くまどり)」がある。顔の筋肉や骨格に沿って描かれる陰影のことで、様々な役柄によって異なり、その種類は50種類以上。隈取の色にはルールがあり、紅色は若さ、正義、勇気、強さ、激しさなどの象徴。藍色は不気味さ、恐ろしさを含んだ、超人的な悪人を意味している。


ちなみに芝居を終えた役者がメイクをしたまま布を顔に押し当ててプリントする「押隈(おしぐま)」、これはファン垂涎(すいぜん)の超プレミアお宝グッズ!

芸どころ博多
豊臣秀吉の時代から博多は祭りと芝居が盛んな土地柄。博多座は「芸どころ博多」の心意気を受け継ぎ福岡市が設立、民間運営する全国初の公設民営劇場なのだ。福岡市、経済界、演劇興行の5社が協力のもと歌舞伎やミュージカルなど多彩なジャンルの演劇の公演をひと月単位で年間を通して行われている。回り舞台や花道、オーケストラピットも完備されておりスケールの大きな舞台が展開。例えば歌舞伎の「居所替わり」という大道具の変化だけで春夏秋冬の時の移ろいを表す仕掛けが観られるのは広い舞台を持つ博多座ならでは。またどこよりも高い宙乗りを観ることもできる。客席は1490席(演目により変動)。舞台を包み込むような座席の配置、抜群の音響効果で3階席からの観劇も十分に楽しめる。


また、重厚なインテリア、赤い絨毯から醸し出される高級感、もう気分はプチセレブ。すこし気取った足取りで客席一階へ上ってゆくと、そこには土産屋さんや弁当屋さんが並びまるで縁日のよう。歌舞伎には幕間(まくあい)(幕の内)という休憩時間があり、この時間に食べるお弁当がまさに「幕の内弁当」。博多座内でも各店数々のお弁当が販売されているが、幕間で食べるお弁当も楽しみのひとつだったりする。もうこうなったら行くっきゃない、いざ行かん、博多座へ!
<船乗り込み>
福岡では5月の末に「船乗り込み」が行われている。博多川を清流公園から博多リバレインまで、笛や太鼓のお囃子(はやし)を先頭に、紋付き袴姿の歌舞伎役者たちを乗せた船が色とりどりの幟(のぼり)をなびかせて下ってゆく。現在では、博多座と大阪松竹座でしか行われていない全国的にも珍しい行事。もちろん川岸からの見物は無料!

チケットの購入
予約センターに電話してチケットを購入。舞台に近い1階席は迫力もあり、生の醍醐味を感じられる最高の席だが、もっと気軽に観劇できる裏技があるのをご存知?「幕見」と呼ばれる格安のシステムでは好きな一幕だけを観られるのだ。チケットは博多座の券売所で朝の10:00から販売。3階席だが雰囲気を楽しむのには十分すぎる程。そして、学生対象の格安チケットは開演20分前に(当日残席がある場合のみだが)学生証の提示で半額の料金で観覧ができる。これを利用しない手はない!

イヤホンガイド無料貸出し
舞台進行に合わせて同時解説があり、初心者でも安心して歌舞伎を楽しめる。

着物の日
博多座では着物の日(2006年2月4日、5日)に着物で来場するとプレゼントがもらえるのだ。まずは“カタチから”っていうのもアリだね!

Research and text by Shiho Yamamura

Originally published in Fukuoka Now magazine (fn86 Feb. 2006)
Category
Others
Published: Feb 1, 2006 / Last Updated: Jun 13, 2017

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