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やることやって物申す

島原子力発電所の原子炉の事故をライブで目の当たりにしてから18カ月が経った。チェルノブイリとスリーマイル島の悲劇が記憶に蘇り、友人や親戚達は一刻も早く日本を去れと言った。しかし福島から1,200キロ離れた福岡に住む僕は、日本を離れなくても大丈夫という気持ちが勝り現在に至るわけだが、在住を決めてからは罪悪感に苛まれるようになった。この大惨事の原因のひとつは、これまで原子力発電所の存在を当然のように受け入れていた自分にあるからだ。

僕は冷戦時代のオーストラリアで育った。当時の政治的な問題はウランの輸出を廃止することだった。ニュージーランドに次いで、オーストラリアは反原子力体制を最後まで貫き通した。それなのに、日本在住25年目になる僕は、福岡の自宅からほんの50キロ先に原子炉があるという事実にそれほど不安を感じていなかった。

しかし全く疑問を抱かなかった訳ではない。以前、九州電力の社員とビールを飲み交わし、疑問を投げかけたことがある。「地震が頻繁に発生する鹿児島の川内に原子力発電所を建てるなんて馬鹿げている」と。すると彼は強い口調でこう答えた。「それよりも、あなたの様な人たちが根も葉もない噂を立てて騒いでいることの方が問題なんだよ。」使用済み核燃料はどうなる?原子炉が廃炉になったら?高い放射能を放つ核廃棄物を保管する予算は原子力発電の予算に組み込まれているのか?

さて、話を現代に戻そう。大多数の日本人は原子力をエネルギー源として受け入れていない。福島原発の後片付けにかかる費用は原子力会社によって補填されることはないし、次なる悲劇が起こらないという保証も無い。しかし企業は電力を必要とし、政治献金を受け取っている政治家は未だに原子力発電所の建設に賭けている。が、表立って反対の立場を示す個人も多くいる。国会議事堂の前に集まり、反原発を掲げ、デモを行なう何万人という人々を見て、僕もその場に居るべきだと思うが、実際のところ僕は参加しない。なぜなら、これほど長い期間、原子力の存在を受け入れて来た自分が、今さら原子力に反対するのに違和感を感じているからだ。原子炉がストップし、自分の消費電力が40%カットされることに賛成できるだろうか?もしくは、原子力に変わる何か良いものはあるのだろうか?そう考えた時、自分でもできることを見つけた。一戸建てを持つという贅沢に恵まれた僕の頭上には、一日中太陽光線を浴びている屋根があるじゃないか。そう、太陽光発電を取り付ければいいのだ!すでにいくつかの会社が無料で見積もりしてくれた上に、多様なシミュレーションも付けてくれた。しかも政府は、太陽光発電による電力をKWhにつき42円で10年間買い取るという法案が成立した。さらには国や福岡市からの補助金も豊富な今、太陽発電に切り替えることはとても魅力的だ。太陽光発電のソーラーパネルを設置して節約できる電気代を試算してみると、設置費の月々の返済金額に相当するが、もちろん疑問も残る。

しかし、メリット、デメリットなど色々と慎重に検討した結果、150万円という大金をはたいて太陽光発電を設置することを決めた。ローンの支払いは1カ月あたり約12,000円で、これは現在の我が家の電気代に相当する。電力を自分で得ることが出来る時に限り、僕はデモに参加して、原子力発電所の事故災害の可能性を叫び、子供たちを安心して育てるためにも完全閉鎖が必要で、福島の二の舞はあってはならないことを訴える権利があるのだと考える。僕は、原子力発電を過ぎ去った歴史の産物とするために、出来る限りのことをすべきだと主張したい。


クリス・フリン オーストラリア ラグビー選手・大学教授

Originally published in Fukuoka Now Magazine (fn165, Sep. 2012)

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Fukuoka City
Published: Aug 29, 2012 / Last Updated: Jun 13, 2017

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