この夏、天神ビジネスセンターⅡが開業します。竣工式が行われた7月9日、一般公開を前にFukuoka Nowは福岡出身の建築家・重松象平氏とともに建物を巡り、4年前に語られた福岡へのビジョンが、どのように形になったのかを見てきました。
Fukuoka Nowが初めて重松氏にインタビューしたのは2022年。福岡市の再開発プロジェクト「天神ビッグバン」の第1号竣工案件として、天神ビジネスセンターが開業した直後のことでした。
当時、OMAのパートナー・NY事務所代表である重松氏が語ったのは、建築そのもの以上に、都市のあり方でした。オフィスビルは、限られた人だけが使う閉じた場所のままでよいのか。これからのオフィスは、人々が集い、交流し、新しい機会を生み出す都市の目的地になれるのではないか。そんな問いが、前回のインタビューにはありました。
今回の取材は、その会話の続きを聞くような時間でした。

私たちは完成間近の天神ビジネスセンターⅡの中で、重松氏と再会しました。
この4年で、天神の風景は大きく変わりました。そして重松氏が言うように、「ワークスペースの概念」そのものも大きく変わりました。
竣工したばかりの建物内を歩きながら、重松氏が立ち止まって語るのは、外観の造形や素材のディテールではなく、人が出会うための場所でした。7層吹き抜けのアトリウムを見下ろす大階段、書店に隣接する客席、植栽を配したテラス、天神地下街へとつながる動線。そして、市役所前広場やアクロス福岡の緑。
重松氏は、この建物が置かれた場所の公共性が、設計全体を方向づけたと話します。天神の中心に、もうひとつ内向きのオフィスタワーを建てるのではなく、広場、公園、通り、地下街、そして人々が集まる場所を、建物の中へと連続させること。都市と建築の境界を、少し曖昧にすること。それが、天神ビジネスセンターⅡの大きな考え方です。

パンデミック後に生まれた余白
建物の中心にある大きなアトリウムの下で、重松氏は、天神ビジネスセンターⅡが当初から最初のビルと並行して構想されていたことを説明しました。しかし、プロジェクトが段階的に進んだことで、2棟目には思いがけない変化を取り込む余地が生まれました。
「段階的に進んだことが、結果的にとても良かったのです。最初のビルはコロナ前、こちらはコロナ後です。パンデミックを経て、ワークスペースの概念は大きく変わりました」
その変化は、オフィスビルに求められる役割を根本から変えました。
「これは本当に、パンデミックがあったからこそ起きたことだと思います。もしパンデミックがなければ、最初のビルと同じようなものになっていたと思います」
一般的なオフィスビルであれば、賃貸可能なオフィス面積をできるだけ確保することが優先されます。しかし、天神ビジネスセンターIIでは、低層部の5フロアが一般にも開かれた空間として計画されています。その中心にあるのが、7層吹き抜けのアクセラリウム「Accelerium」です。名前は、atrium(アトリウム)とaccelerator(アクセラレーター)を組み合わせたものです。
「テナントスペースだけに頼るのではなく、低層5フロアを、より一般の人たちを迎え入れる場所にしました。テナントの方々が使える場所でありながら、誰でも訪れることができる場所でもあります」
働く場所から、街の居場所へ
見学中、重松氏が何度も立ち返ったのは、「開かれていること」でした。
「オフィスビルは、通常は公共建築ではありません」
その前提を、少しずらすこと。限られた人のための職場でありながら、同時に街の人が入り、過ごし、偶然の出会いを持つことができる場所にすること。それが、この建物で重松氏が試みたことです。
「誰もが楽しめるオフィスビルをつくりたいと思いました」
天神ビジネスセンターⅡは、地下で天神地下街とつながり、地上では市役所前広場に面しています。地下の都市空間と、天神の中心的な公共空間が、建物を介してなめらかにつながる構成です。

アクセラリウムの周囲には、書店、カフェ、レストラン、コワーキングスペース、集いのための場所が配置されています。通り抜けるだけではなく、少し立ち止まり、座り、誰かと会い、何かを始めたくなるような余白があります。
重松氏は、植栽についても触れました。ここでは緑が、完成後に置かれた装飾ではなく、建物と一体のものとして初めから計画されています。
「すべて最初から計画されていました。もっと外にいるような感覚、ほとんど公園にいるような感覚にしたかったのです」
高密度化が進む天神において、建物は単に床面積を積み上げるだけではなく、都市に呼吸できる場所を差し出す必要がある。重松氏はそう考えています。
「都市、公共空間、オフィス空間のあいだに、このような開かれたバッファーゾーンが必要でした」

偶然の出会いを設計する
今回の見学を通して、印象に残った言葉のひとつが「collision」でした。直訳すれば衝突。しかし、重松氏が語るそれは、異なる人や考えがぶつかり、交差し、新しいものが生まれる接点のことです。
複数のフロアが見渡せるアトリウムに立ちながら、重松氏はこの空間を、単なる視覚的な見せ場ではなく、人と人を結びつけるための装置として説明しました。
「異なるステークホルダー同士の衝突が、イノベーションを生むことを示す研究はたくさんあります」
書店を訪れる人、スタートアップの創業者、オフィスで働く人、打ち合わせに来た人、街を歩いていた人。異なる目的を持つ人たちが、同じ空間を共有する。その重なりの中から、新しい会話やアイデアが生まれることを、重松氏は期待しています。
「このアクセラリウムから新しいアイデアが生まれることを期待しています。単なる視覚的なつながりに終わらせるのではなく」
建築の話でありながら、重松氏の言葉はとても人間的でした。素材や構造よりも、会話、滞在、偶然の出会い、そして異なるコミュニティが重なり合うことで生まれるエネルギーに焦点がありました。
なぜ福岡なのか
話はやがて、建物から福岡という都市そのものへ移りました。
重松氏は、福岡を東京と比較して語るのではなく、この都市の強みはスケールにあると話します。
「福岡のサイズには、とてもユニークなものがあります」
大きすぎず、小さすぎない都市。そのスケールだからこそ、建築家やデベロッパーは、新しい試みに踏み出しやすい。重松氏は、福岡にその可能性を見ています。
「このプロジェクトを通じて、中規模のプロジェクトこそ、少し大きな実験やリスクを取ることができるのだと示したいと思っています。より冒険的なことができるのです」
天神ビッグバンによって変化を続ける福岡は、都市生活の新しいあり方を試す場所でもあります。働く場所、集まる場所、買い物をする場所、休む場所、アイデアが生まれる場所。それらを分けすぎず、都市の中で重ねていく。天神ビジネスセンターⅡは、その実験のひとつといえます。
4年前の問いへの答え
4年前のインタビューを振り返ると、重松氏が話していたことが思い出されます。
初代の天神ビジネスセンターについて、彼はもっと公共的な機能を取り入れたかったと語っていました。オフィスビルは、単に働くための場所ではなく、人々が集まりたいと思う目的地になるべきだと。
天神ビジネスセンターⅡは、その時の問いに対する、ひとつの答えのように見えます。
10年後、この建物がどのように記憶されていてほしいか。そう尋ねると、重松氏は建築の姿や高さについて語るのではなく、答えはシンプルでした。
「街に開かれた建物のひとつとして記憶されていてほしいです」

ニューヨーク、東京、そして世界各地でプロジェクトを手がけてきた建築家にとって、故郷・福岡でのこの仕事は、単に新しいランドマークをつくることではありませんでした。
天神のスカイラインにひとつの建物を加えることではなく、福岡の日常の中に、人が集まり、交わり、何かが始まる場所をつくること。天神ビジネスセンターIIは、街に対して開かれたオフィスビルであり、同時に、これからの福岡の都市生活を考えるためのひとつの実験でもあります。
関連取材:NY拠点の建築家・重松象平氏に聞く「福岡とはどんな都市」
https://www.fukuoka-now.com/ja/right-place-sp/
2022年7月19日
重松象平(Shohei Shigematsu)
建築家。OMAパートナー/NY事務所代表。九州大学 建築研究・教育センターBeCATセンター長。福岡県出身。
代表作には、ケベック国立美術館新館、ティファニーNY本店、バッファローAKG美術館、虎ノ門ヒルズ ステーションタワー、江戸東京博物館、NYニューミュージアム新館、ほか、東京都現代美術館クリスチャン・ディオール展示空間デザイン、マイアミ海底彫刻公園計画マスタープランなども手がける。
天神ビジネスセンターⅡ
- 福岡市中央区天神1-10-10
- 地上18階、地下2階、塔屋2階/建物高:約87.6m
- 事務所、店舗、他
- 2023年10月着工/2026年7月竣工/2026年8月開業

Text & photos: by Nick and Emiko Szasz (Fukuoka Now)