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NY拠点の建築家・重松象平氏に聞く「福岡とはどんな都市」

岡は今、都市の大きな更新時期を迎えていて、天神ビッグバンを中心に再開発が活発です。
今回は、天神ビッグバンの規制緩和を受けた第1号案件の天神ビジネスセンタービルの建築デザインを手がけた重松象平氏に話を伺いました。

建築家としてニューヨークを拠点に、世界各地で先進的なプロジェクトに多数関わる知見豊富な彼が見る福岡とはどんな都市なのでしょうか。

Shohei Shigematsu, 重松象平

重松象平(しげまつ・しょうへい)
国際的建築設計集団OMAのパートナーおよびニューヨーク事務所代表。主な作品は、ケベック国立美術館新館、ロサンゼルスのウィルシャー・シナゴーグ新館など。ニューヨークのニューミュージアム新館、東京の虎ノ門ヒルズステーションタワーなど、世界各地でプロジェクトが進行中。現在、九州大学大学院人間環境学研究院教授・BeCATセンター長をつとめる。

天神ビジネスセンタービル
福岡・天神地区に2021年9月30日竣工したガラスカーテンウォールに覆われたオフィスビル。福岡市が主導する再開発事業「天神ビッグバン」の規制緩和を受けた第1号。建築デザインは重松象平氏、インテリアデザインは、GINZA SIXの内装も手掛けたグエナエル・ニコラ氏が担当。1階は商業ゾーンで、2〜19階はオフィス、地下2階は飲食ゾーン「天神イナチカ」。

Tenjin Business Center exterior, 天神ビジネスセンタービル外観

天神ビッグバン
規制緩和などを活用して民間ビルの建替えを促進することで、天神地区に新たな空間と雇用を創出する福岡市主導のプロジェクト。国家戦略特区を活用した航空法高さ制限の特例承認と、様々な施策を組み合わせて、耐震性が高く、ウィズコロナ・ポストコロナにも対応した先進的なビルへの建替えを促進し、より国際競争力が高く、安全安心で、環境にも配慮した魅力的なまちづくりに取り組む。天神ビッグバン開始後、ビッグバンエリアの現時点での竣工棟数は、天神ビジネスセンターを含め43棟。

Tenjin viewing from Tenjin Business Center Building, 天神ビジネスセンタービルからの天神

中央奥に見えるガラス張りのビルは、2022年12月に竣工予定の福岡大名ガーデンシティ。上層階にはザ・リッツ・カールトン福岡が23年春に開業予定

Fukuoka Now:福岡は国が打ち出した「国際金融都市」構想の候補地に手をあげています。国際金融機能が集積する東京や大阪とは異なり、スタートアップに投資を呼び込み、イノベーションを創出する戦略を描いています。福岡を「小さな都市」と評価している人も多いのですが、街にとって、大規模な再開発はどんな意味があるのでしょう?

重松象平氏:福岡は、Well-beingで、Livableと言われていますが、意図してしてこうなったのか、それとも結果的にこうなったのでしょうか。

* Well-being(ウェルビーイング:満足した生活を送ることができている状態)
* Livable(リバブル:住みよい)

しっかり計画してLivable Cityを作ることは、とても難しいと思うんです。
例えば、開発はプランニングして、色々な専門家が関わって進んでいきます。そうすると、色々な理想や妥協が混ざって、純粋な「まちづくり」が見えにくくなり、今ここにあるような福岡の街並みは、つくりたくても、なかなかできません。

都市というのは、長い年月をかけて有機的に発展していきます。だから、一気に再開発を行うと、都市が長い時間をかけて培ってきたことが、お金をかければできると勘違いしてしまうという欠点があります。

大きな開発は、東京でも大阪でも福岡でも似ているように感じますよね?歴史的文脈や独特の文化を理解して、その都市に何か本質的な貢献をする、ということがなくなってしまい、むしろ、これまでに都市が培ってきた独自の雰囲気まで壊す傾向すらあります。しかし、何も変わらないことを選ぶのではなく、地域を愛するデベロッパーや建築家、地域の産業界や市民が一枚岩となって関わって行うことが大切です。そういう地道で抜本的な努力を続けていかないと、街は革新されませんから。

エキサイトメントが必要
福岡は、Talent retention(優秀な人材の維持)の面で、東京・大阪に劣っていると思います。大学がたくさんあるのに流出してしまう。リバブルだけではダメで、若者には多様なエキサイトメントが必要だと思います。それを達成するためには、歴史的なものから自発的なもの、そして計画されたものまで、いろいろなコンテンツが必要です。

天神ビジネスセンタービルのようなものができてグローバル企業が入ると、今までここで働かなかったような国際的な人材が来て、地元の文化と化学反応を起こし、そこから波及して何か新しい方向性が生まれると思うんです。そういう観点で考えると、こういうハイエンドなものも大事です。

Tenjin Business Center exterior, 天神ビジネスセンタービル外観

建築家はいたって、新しい開発から長年続く文化を一から作っていくことがいかに難しいとかを分かっていながら、その設計をやらざるを得ない状況に面します。そこでベストを尽くすために、デザインだけでなく、建物の中にどのような機能やユニークなコンテンツを入れていくのかを、みんなと一緒に考えていかなくてはいけないのです。建築家には、そのような職能がこれからもっと求められるようになると思います。

公共的なベネフィットが常に求められる時代
この建物は現在は突出して高いので、上層階には、都心はもちろん、周辺の海も山も、福岡では今まで見ることがなかった範囲を見渡せるくらいの眺望があります。しかし残念なことに、それを公共の人が経験することはできません。上層部にホテルがあるビルの場合は、そんなことにはならないんですが、オフィスビルだとそれが叶わない。このように大きな建物を、規制緩和で都心に建てておきながら、肝心なところに公共性がないともいえます。

Tenjin Business Center interior, 天神ビジネスセンタービル内観
福岡市の天神ビッグバンのガイドラインは、「小さな広場を地上階に作る」という指定はありますが、上に公共的なプログラムを入れるという項目はないんです。もう少し立体的に公共性を持たせたらよかったと思います。屋上庭園だったり、展望カフェとかね。

Tenjin viewing from Tenjin Business Center Building, 天神ビジネスセンタービルからの天神

それから、容積率の制限を緩和されているということは、その分開発者がより利益を得ることができるということ。だからこそ、自らの利益だけではなく、公共にもある程度還元する、という『還元のジェスチャー』をデザインとして考えたかったんです。小さいけれど角地にできたパブリックスペース(公共空間)と建物全体のデザインが連動していて、都市のアクティビティと建物内のアクティビティがそこで融合する、というのが僕の中のストーリーです。また、天神ビッグバンの最初のプロジェクトでもあるし、これが模範となって、少しは独自性が高く、公共空間の連続性や、多様性が豊かな都市になれるよう意識しました。昨今、都心で大きな開発をするからには、その都市に根ざした市民の想像力を掻き立てるようなベネフィットもなければならない、という時代ですから。

建築は、ウィズコロナ・ポストコロナの影響はありますか。
オフィスビルというタイポロジーは、根本的に変わってきていると思います。企業が、人が会社に行く、ということ自体を見つめ直さざるを得ない状況に追い込まれているからです。リモートで業務はできるようになった、では、会社に行く意義や目的は?今までみたいな生産性だけを求めるオフィスや執務空間ではなく、そこには何かがあり、アイディアが生まれ、何かやってみたい、と思えるようなデスティネーション(目的地)にならなくてはいけなくなる。

Tenjin viewing from Tenjin Business Center Building, 天神ビジネスセンタービルからの天神

そうするには、ソフトとハードの両輪の変化が必要です。行って楽しいと思えるようなイベントや、常に環境が変化するオペレーションの工夫だったり、多様なライフスタイルやワークスタイルに対応する空間づくりが求められるようになっています。

アメリカでは最近、今までは閑散としていたロビー空間などを活用して、色々なプログラミングが行われ、多様なアクティビティが生まれるような仕掛けがあるビルを見かけるようになりました。そういう点では、天神ビジネスセンターの2階ロビーも改善の余地はまだあると思います。

Tenjin Business Center interior, 天神ビジネスセンタービル内観

たまたまリバブル
最初の話に戻りますが、福岡って、気がついたらリバブルになってたんじゃないか、と私は思うんです。これまで計画的に進めてきたのではなく。最近は、リバブルや住みやすいまち、という言葉を良く目にしますが、ではそのために行政や街が具体的に何をやっているのかは、よく伝わっていません。

観光でも似たような話があります。クルーズ船が博多港に寄港するようになったのは地理上の幸運。誘致を積極的に行ったのではなく、たまたま都合の良いルートに福岡が入っていた。福岡はラッキーヒル。It’s a lucky place.
九州の玄関口だから、みんなが通らざるを得ない、ってことですよね。
さらには、福岡といえばここ!という決定的な観光スポットが少ないですよね。歴史や文化のコンテンツが意外に少ない。いい美術館、いいコンサートホールがない。文化醸成の力をもっと信じて投資していくべきだと思いますし、その文化力の評価軸も議論していくべきです。現在は、人が良くて物価が安いといった抽象的なリバブルに頼りすぎているような気がします。
アメリカにはパテントの数をベースにした都市のランキングがあり、その都市からどれだけ特許が生まれたかが、コンテンツやアイディアを生み出す人材や教育環境があるか、という文化的レベルの判断指標になります。まずは評価の仕方そのものを考えて、福岡も、もっともっと独自文化を生み出せるようになりたいですよね。

気になる都市や好きな都市はありますか?
ロンドンには、公園や美術館などが半端なく多くて、そういうものに関心がなくても、街を散策するだけで日常的に感化されます。シアターも多く、演劇や音楽など独自のコンテンツもたくさん生まれています。さらに、歴史的な建造物などばかりを推すのではなく、新しい建築や公共空間のデザインなど、革新性も追求しているのが伝わってきます。目指すところがロンドンやパリでなくてもいいというか、逆にそうではない、現在の価値観に沿った、新しい理想的な都市像を模索する必要があると思っています。そういった点で言うと、福岡のポテンシャルは高いと思います。

London UK, イギリス・ロンドンの風景Photo by Simon Vollformat on Unsplash

行政のインセンティブ作りも重要だと思います。アメリカで見てみると、フロリダ州は気候が良いというだけでなく所得税がないことに加え、コロナ禍を通じて多拠点化が可能になったため、ニューヨークやボストンから移り住む若者が増えています。香港やシンガポールも然り。人が住む場所を選ぶときのインセンティブは、行政におけるクリエイティビティの一つだと思います。そして、マイアミはラテンアメリカの多様な国からの移民が多いことと、「アートバーゼル」という国際的なアートイベントの影響で芸術や食のハブになりつつあって、この10年での変化は目を見張るものがあります。

Shohei Shigematsu, 重松象平

都市を評価する際の基準を新たに採用するとすれば、何かおすすめの基準はありますか?
「食」はどうかな。どれだけ自給自足、地産地消、そしてグローバルな視点で食をコンテンツとして育てているか。それから「古くから続く企業の数」とか。300年続く会社が今なお繁栄しているという文化のオリジナル性など含めて、読み解く価値ある指標だと思います。他には「若い経営者や役員の数」。若い力を信じない場所は発展しない気がします。女性経営者の数はもっと大事です。

国際化についてはどう考えますか?
国際化は常に大切なことだと思います。福岡が歴史的にここまで発展してきた理由の一つは、中国や韓国に近い国境都市だからだと思います。ポジティブなことだけではないと思いますが、総体として、他の文化とぶつかり合ったり、見習ったり、融合したりして文化が発展するのだと思いますし、実際に、福岡には大陸に影響を受けたであろう、日本の他の都市にはない独自のものがたくさんあります。今から改めて取り組むのであれば、90年代後半から2000年代にかけて押下されたグローバリゼーションではなく、「これからの国際都市とは何か」をきちんと議論し、研究する必要があるのではないかと思います。自国の文化や独自性をより一層発展させた方が、結果的に国際競争力がつくかも知れません。

福岡での懸念点は、みんながそこそこ現状に満足していることかもしれませんね。あまり批判的な声が聞こえてこないのはいいことでもあると思いますが、発展性はないと思います。福岡には、メディアやシンポジウムなど、屈託のない議論ができる場はありますか?

私も福岡出身ですから、素晴らしい都市であることは知っています。人がよくて、食べ物が美味しくて、住みやすい…でも、それはもう良いから、「What’s next?(次はどうする?)」

Looftop at Tenjin Business Center Building, 天神ビジネスセンタービル屋上

福岡でチャレンジしたいことはありますか?
公共建築といわれる、分け隔てなくみんなが行けるような公園や美術館などで、世界的に評価されるようなものができたら、福岡はより一層評価が上がると思います。それから、アート、ビジネス、音楽などの現代的なイベントも。世界的規模で人が一堂に集う定期イベントを福岡で開催する、誘致するのもいいチャレンジだと思います。

最近は、静的な箱物よりもダイナミックなイベントの方が、都市の活性化を図る手法として確立されている気がします。伝統的な地域のための祭りも大切だけど、ここで言いたいのはそれではなく、多様な人が集うことができて、文化をそこでつくったり、ディスカッションができる楽しいイベント。そう考えると、アートやテクノロジー、ファッション、デザインなどがテーマになっちゃんです。そういうイベントを行うようになれば、きちんとした美術館などの文化施設の必要性も逆に問われるようになるでしょうし。

Tenjin Business Center interior, 天神ビジネスセンタービル内観

住みやすいまちの落とし穴に注意。プログレッシブ(革新的・進歩的)な人を受け入れる社会に。
東京は子育てが大変だし、大きすぎるから、住みやすい福岡に来る、というのは、福岡が東京よりも根本的に良い、という証明にはなりません。もちろん、たくさんの人が、ここへの移住を決めるということは、人を惹きつける何かがあることに間違いはありませんが..
福岡にくる理由が、オルタナティブ(代案)でなく、福岡だから実現できることがある、とプログレッシブな人に積極的に選ばれる街でありたいですよね。

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Others
People
Fukuoka City
Published: Jul 19, 2022 / Last Updated: Jul 19, 2022

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