
トマス・サラセーノのインスタレーションが浮かぶ7層吹抜け空間「アクセラリウム」。木の温もりを感じる大階段と曲線的な空間に来賓や関係者が集まる中、2026年8月4日、福岡市中央区天神1丁目に「天神ビジネスセンターⅡ」が開業しました。
Fukuoka Nowは、福岡市役所の向かいに誕生したこの新しいランドマークの開業セレモニーを現地で取材。登壇者たちの言葉から見えてきたのは、単なる新しいビルではなく、天神に生まれた「新しいキャンパス」としての姿でした。 福岡地所株式会社 代表取締役社長の榎本一郎氏は、この建物を従来型のオフィスビルではなく、企業、スタートアップ、学生、クリエイター、来街者が自然に交わる場として構想したと語りました。
「そこで出てきた答えが、キャンパスでした」

榎本氏は、天神ビッグバンの中で福岡がどのようなまちづくりを目指すのか、東京とは異なるベクトルで日本を元気にしていくために、福岡らしいワークプレイスとは何かを考え続けてきたと説明しました。自然が近く、コンパクトで、アジアに開かれ、若い世代の挑戦する気質が残るまち。それが福岡らしさだといいます。
「ここは、ただの箱型のオフィスではありません」
地下2階から地上5階までをつなぐ空間・アクセラリウムを中心に、商業施設、飲食店、大型書店、オフィスロビー、創業支援施設、緑、アート、ワーカー専用の共用空間が立体的に重なります。デザインは、福岡出身の建築家の重松象平氏(OMA)です。
Fukuoka Nowでは、竣工時に重松氏に取材したインタビュー記事も公開しています。また、天神ビジネスセンターⅡに入居する新店舗や飲食店については、別記事で詳しく紹介しています。
榎本氏は、大学のキャンパスでは教室だけでなく、食堂、体育館、部室、サークル活動の中で人が出会うように、このビルでも組織の枠を超えた出会いが生まれてほしいと話しました。
スタートアップの経営者と大企業の担当者が(入居者専用施設の)サウナで隣り合い、天神イナチカで食事をしながら新しいアイディアで盛り上がる。福岡の大学生がジュンク堂書店でゲームプログラミングの本を読み、(入居するゲーム制作会社)LEVEL5のセミナーに参加してプロのクリエイターと出会う。そんな具体的な場面を描きながら、榎本氏はこの場所に期待する未来を語りました。
「この天神ビジネスセンターⅡで、夢を叶える生態系、エコシステムを一緒に生み出したい」
福岡市長の高島宗一郎氏も、この開業を天神ビッグバンの大きな節目として位置づけました。天神ビッグバンは、2005年の福岡県西方沖地震をきっかけに、九州で最も人が集まる天神を、より安全で、より創造的な都心へと更新していく取り組みとして始まったものです。

「天神ビジネスセンターⅠとⅡがあって、ここはまさに天神ビジネスキャンパスだと思います」
高島市長は、コロナ禍を経て、職場の意味そのものが変わったとも語りました。
「コロナを経て、職場はただ作業をする場所ではなく、新しい価値を生み出す場所になりました」
開業セレモニーの会場からアクセラリウムを見渡しながら、高島市長は、曲線的な空間、緑、アート、照明、共用部の充実が、人を呼び込み、集いたくなる場をつくっていると評価しました。
「たくさんの人がここに集まってきたくなるキャンパスになることを期待しています」
重松象平氏は、天神ビジネスセンターⅠとⅡが、2016年の国際コンペの段階では一体として構想されていたことを明かしました。2つの建物は同じものを並べたツインタワーではなく、それぞれ異なる役割を持ちながら補完し合うペアだといいます。

「ツインタワーというよりは、お互いを補完し合いながら成立しているキャンパスです」
「海を見て、山を見て。そして、市役所、目抜き通りを見渡しています」
重松氏にとって、天神ビジネスセンターⅡは、パンデミックの前後で大きく変わったワークスペースの考え方を体現する建築でもあります。最初の天神ビジネスセンターがコロナ前のオフィス像を背景にしているのに対し、Ⅱは人が集まり、偶然に出会い、新しい価値を生む場として完成しました。
「パンデミック前と後のオフィスデザインが背中合わせになっていて、ワークスペースの概念が大きく変わったことを体現するコンプレックス(複合体)です」
その変化を象徴するのが、地下から地上へと連続するアクセラリウムです。単なるビル内のロビーではなく、天神地下街や地上の広場、周辺のまちとつながる立体的な公共空間として計画されています。
「僕はよく、バーティカル・アーバン・パーク、つまり垂直化した公園のようなものだと説明しています」
重松氏はさらに、アクセラリウムを「コリジョンゾーン」と表現しました。異なる人や企業、来訪者が重なり、新しい出会いやアイデアが生まれる場所という意味です。
「アクセラリウムは、いろいろな利用者、いろいろなステークホルダーが集まって、新しい出会いやアイデアが生まれるコリジョンゾーンです」
また、福岡だからこそ実現できた建築だとも語りました。
「福岡には独自のスケール感があります。大きすぎず、小さすぎず、でも非常にアクティブです。これは福岡にしかできないデザインだと思っています」
この建物のコンセプトに、実際の入居企業がどう応えようとしているのか。その具体例として登壇したのが、福岡を拠点にゲームソフトを開発する株式会社レベルファイブ代表取締役社長/CEOの日野晃博氏です。

日野氏によると、当初レベルファイブは福岡本社を移転する予定ではありませんでした。しかし、建設中の天神ビジネスセンターⅡを見学し、建物のコンセプトを聞いたことで、その考えが一変したといいます。
「このビルに入って、そのコンセプトを聞いたときに、一目惚れし、その日のうちに、入ることを決めました」
レベルファイブの新オフィスは、「仕事を楽しめるオフィス」をテーマに計画されています。日野氏は、人格を持ったAIキャラクターによる受付システム、自社作品の展示やジオラマ、社内をつなぐ階段、カフェスペース、キッチンやバーのような空間、小さなシアターなどの構想を紹介しました。
「働いていて楽しい、会社に行きたくなるオフィスをつくりたい」 今回の移転は、単なる住所変更ではありません。福岡から世界へ向けて作品を生み出すための、新しい創作環境づくりでもあります。
「九州最高のクリエイティブ環境とは何かを考えています。このビルでいいものをつくって、世界を目指したい」

天神ビジネスセンターⅡは、オフィス、商業、創業支援、ワーカー支援機能を一体化した大型複合ビルです。一般の来館者が利用できる商業ゾーンは地下2階から地上3階まで。地下には「天神グルメストリート 天神イナチカ」が拡張し、ジュンク堂書店、スターバックス リザーブ® カフェ、Käfer ALPS KITCHENなども入居します。
4階には、ディープテック分野に特化したインキュベーション施設「Fukuoka Innovation Lab.Tenjin」が開設されます。また、地下2階と4階から5階には、入居企業のワーカー向け共用空間「Reboot!」を整備。ジム、サウナ、スパ、カフェラウンジ、会議室、シミュレーションゴルフなどを備えます。
アクセラリウムには、アルゼンチン出身のアーティスト、トマス・サラセーノによる大型インスタレーション「Aerosolar Rhythms(エアロソーラー・リズムズ)」も展示されています。光や空気、人の動きに呼応して表情を変える作品が、吹抜け空間に常に変化する気配を与えています。
テープカットを迎えるころには、この日のセレモニーは単なる新築ビルの完成披露ではなく、天神に新しい場所の使い方を提案する場になっていました。 登壇者たちが語ったような出会いは、これから本当に生まれるのか。スタートアップと大企業、学生とクリエイター、ワーカーと来街者が交わり、新しいアイデアや事業が育っていくのか。
建物は開業しました。ここから何が始まるのか。その方が、きっとおもしろい問いです。

天神ビジネスセンターⅡ
- 開業:2026年8月4日
- 所在地:福岡市中央区天神1-10-10
- 規模:地上18階、地下2階
- 商業ゾーン:地下2階〜地上3階
- デザイン:重松象平(OMA)
- 主な施設:Fukuoka Innovation Lab.Tenjin、Reboot!、天神グルメストリート天神イナチカ、ジュンク堂書店、他
- https://tenjinbc2.jp/
Text & photos: Nick Szasz / Fukuoka Now