「お帰りなさい。」ことこと列車に乗り込むと、スタッフの皆さんがそう声を掛けてくれました。2019年3月の開業時に乗車して以来、7年ぶりの再訪です。

実はこの取材、開業から7年を迎えた3月に乗車したもの。記事を書くのがすっかり遅くなってしまったのですが、その間にも何度も旅を思い出していました。
九州は「ななつ星 in 九州」をはじめ、多彩な観光列車が走る観光列車大国として知られています。その中でもことこと列車は少し特別です。炭鉱の歴史が刻まれた町並みや里山の風景が今も息づく筑豊・京築の里山をゆっくり走りながら、その土地の食を味わい、人と出会い、風景を楽しむ。そんな旅が、この列車にはあります。

深紅のメタリック車体は今も美しく、沿線の風景や空模様を映し込みながら走ります。
デザインを手掛けたのは、ななつ星をはじめ数々の観光列車をデザインしてきた水戸岡鋭治氏。単なる移動手段だった鉄道を、乗ること自体が目的となる体験へと変えてきたデザイナーとして知られています。

ことこと列車にもその思想が息づいており、車内には福岡県の伝統工芸である大川組子がふんだんに使われています。床には22,000ピースの組板による寄木細工、天井にはドイツ製ガラスを組み込んだステンドグラス。木の温もりに包まれた空間は、まるで上質なラウンジのようです。

7周年祝いに駆けつけた福山剛シェフ
車内で提供される料理を監修するのは、福岡のレストラン「Goh」の福山剛シェフ。国内外に多くのファンを持つシェフとして知られていますが、その魅力は料理の技術だけではありません。九州各地を訪れ、その土地の食材や生産者の魅力を掘り起こし、新たな価値として発信し続けています。気さくでチャーミングな人柄も、多くの人を惹きつける理由のひとつです。
ことこと列車では、沿線9市町村の食材に光を当てた前菜が詰まったBento Boxから始まり、季節野菜のムース、色味鮮やかなGohのスペシャリテ・椎茸と鮑のリゾット、和牛頬肉のパピオット、そして枡で提供される季節のフルーツを使ったパルフェまで、地域の恵みを一皿ごとに楽しめるコース仕立て。

料理を味わいながら車窓へ目を向けると、ゆるやかな里山の風景が続きます。
今回訪れたのは新緑が美しい季節。みずみずしい緑に包まれた田園風景が広がり、車窓を眺めているだけでも気持ちがほぐれていきます。車内からは筑豊のシンボルである福智山や、特徴的な山容で知られる香春岳の姿も見ることができました。

私たちが乗車したタイミングは、菜の花の黄色が鮮やかな時期でしたが、桜の季節にはどんな風景が広がるのだろうと想像が膨らみます。夏には生命力あふれる濃い緑が広がり、秋には紅葉が景色を彩るはずです。車窓を楽しむ列車だからこそ、季節ごとに乗る理由があります。
そして、天候に左右されにくいのも魅力です。雨の日には景色がしっとりとした表情を見せ、車内でゆっくり食事や会話を楽しむ時間そのものが旅になります。

ドリンクも印象的です。沿線の老舗・林龍平酒造場の日本酒やワインはもちろん、地元産フルーツを使ったジュースや地域のお茶など、ノンアルコールメニューも充実しています。お酒を飲む人だけでなく、誰もが地域の味を楽しめるように考えられていることが伝わってきます。

途中下車の時間も、この列車ならではです。車内から景色を眺めるだけでなく、実際に駅に降り立ち、その土地の空気を感じる。地域の人と会話を交わし、その土地の歴史や文化に触れる。食事と車窓だけでは終わらない体験が、この列車の魅力をより深いものにしています。

7年ぶりに訪れても、やっぱりいい。
それは美しい車両や料理だけではなく、「お帰りなさい」と迎えてくれるスタッフの皆さんの存在かもしれません。変わらないおもてなしと、地域への愛情に支えられながら、この列車は今日も筑豊・京築の里山をゆっくり走っています。

ことこと列車
- 運行日:2026年4月4日~11月29日の土日祝日(一部除外日あり)
- 集合:11:15(直方駅1F平成筑豊鉄道のりば)
- 解散:14:52(行橋駅)
- 料金(税込|要予約):¥19,800、こどもメニュー(6〜12歳)¥16,800
- https://www.heichiku.net/cotocoto_train/
Tips
直方駅までは、JR博多駅「福北ゆたか線」から、直方行き普通列車で約70分または快速列車にて約60分。旅が終わり行橋駅に着いたら、JR日豊本線の特急ソニックに乗車し、小倉駅経由で博多駅へ向かうルートが便利です(所要時間:約1時間〜1時間15分)。
関連情報:川から海へ、行橋での小さな旅
https://www.fukuoka-now.com/ja/yukuhashi-guide/
2019年3月開業「ゆっくり筑豊を味わう観光列車 ことこと列車」
https://www.fukuoka-now.com/ja/coto-coto-train/