福岡県の伝統工芸品に指定されているマルティグラス。指定されたのは1988年と、比較的新しい特産工芸品です。切子細工などで用いられる昔ながらのガラスの技法に、「色被せガラス」というものがあります。この技法を独自に発展させたものを「MULTIPLE LAYER GLASS( マルティプルレイヤーグラス)」と呼び、この技法の愛称がそのまま工芸品の名前になっています。
マルティグラスの特徴は、いろいろな色のガラスを何層にも重ねていること。一般的な色被せガラスはメインの色にもう一色を加えるぐらいですが、マルティグラスは性質の違う数種類の色ガラスを重ね、さらに形態も曲線を生かした優美なデザインです。こうした色と形の工夫により、見る角度や光の反射によって多彩な表情が生まれ、まさに芸術品のようなガラス製品になります。
伝統工芸品としての指定は比較的最近ですが、手吹きガラスの工房として誕生したのは1919年。さらに1937年のパリ万博では、日本のガラスとしては初めてのグランプリを受賞しました。その後は福岡市内に工房を構えていましたが、1999年に惜しまれながら工房を閉鎖。けれども技術を継承したいと考える元従業員が中心となり、マルティグラスの名前が復活した経緯があります。
マルティグラスはすべての工程が熟練した職人による手づくりです。そのため形や大きさ、色合いが一つ一つ異なり、同じ製品はありません。約1200度にもなるガラスの溶解窯から、素早くアメ状のガラスを取り出して重ねていく様子はまさに職人技。毎日の生活で使える器はもちろん、干支の置物や季節ごとのオーナメントなど、多彩なガラス製品が生み出されています。