Now Reports

静かに!車内では静粛に。

 日本のバスは動く図書館みたい。もちろん本棚なんてないけれど、異常な静けさなの。乗客は、ヒソヒソ声で喋っているか、無言。うっかり荒い息づかいでもしようものなら、この静けさを打ち消してしまいそう(バスが学生で溢れているなら、全く別の問題ですけど)。音をたてない、動き回らない、そして一番大切なのは携帯を使わないこと。おばさま達によればメールもダメで電源も消さないといけないらしいわ。これ本当の話だけど、私、同席したおばさんに電源を消すよう注意された後、電源を消されたことがあるの。バスの中でメールすると、まるで神聖な場を汚しているかのような扱いよ。

 でも、どうして日本のバス車内はこんなに静かなのかしら?私が乗り馴れていたバスはうるさくて、いつも遅刻していて感じが悪いのが当たり前。それが恋しいことはまったくないのだけど、ここ日本のバスは心地悪いくらい静かに感じるわ。私は週5日、乗り換え含めて1日4つのバスに乗るから、24時間の内の2時間が無言を強いられる時間よ。になってしまうの。次の停車駅を伝えるアナウンスなんて、まるで瞑想中の鐘楽みたいなものよ。バスの運転手がどうやって毎日を切り抜けているかも不思議。一匹狼か子だくさんの親なら分かるけど、一般人にとって、あの静けさは気が狂っちゃいそうよ。

 そんなバス車内で、無言仲間から声をかけられた時は耳を疑ったわ。乗車して、いつもの瞑想タイムに突入しそうになった時に、インターホンから怒鳴っているようなアナウンスが聞こえるの。しかも、さらに驚いたのは、その時点での乗客は私だけ。ふぅ…ついにうるさくしていた時の罰がきたのね、と思ったら「君どこから来たの?」だって。この運転手もついに静けさに耐えられなくなったのね。あいにく二人だけのの楽しいお喋りもつかの間、次の乗客が来た後は、二度と口を開いてくれることはなかったの。まるで役者のように、また無言の運転手と乗客を演じる羽目になっちゃった。

 しかしどうしてこんなにも静かなの?なぜ少しでも会話をしたら無礼なの?何故あの運転手は、静寂のために私の存在を消してしまったの?まず言えるのが日本人は全体的に騒々しい輩じゃないこと。福岡はキングストンやNYみたいに路上で音楽響かせたりする街ではないのは分かるけど、この徹底した静けさはいったい何?バスで突然鳴り出した着信音を消す為に、半狂乱で携帯を探していたおじいちゃんを見たことあるし…。

 もしかすると「マナーモード」という表現に私の質問への答えがあって、単にマナーの問題かもしれないけど、マナーの為だけ、という訳でもないかも。誰も他人あなたの疲れる仕事の状況なんて聞きたくないし、ましてや若者間で流行っている訳の分からないモノゴトも知らなくていい。バスに乗っている時間はリラックス出来る時間であり、公共の場でありながらも自分との時間を楽しめる至福の時。私自身にとっても、無音のバスでのひとときは、人生の方向性から今晩の夕飯まで、様々な閃きの時間でもあるの。まぁ、大抵はあの静寂は居眠り昼寝への誘いになり、それ自体悪いことではないけれど…。でもせめて、もう少し明るくてもいいでしょ、とは思うの。バックの中をゴソゴソ音たてて家の鍵を探している時に、いちいち社会から否定されている気分にはなりたくないんですもの。

 あ、その後、友達になった運転手とはまたお喋りしたかって?残念ながらあれ以降は二人だけになったことがないけど、道端で会った時はクラクションを鳴らして手を振ってくれるから私も手を振り返すの。そして再び沈黙のルールを破れる時を楽しみにしているわ。きっと彼も同じ気持ちなんだと思うわ。でもそれは声に出しちゃダメなの・・・。


ダナカエ・ファーガソン、ジャマイカ、教師

Originally published in Fukuoka Now Magazine (fn171, Mar. 2013)

Category
Others
Fukuoka City
Published: Feb 28, 2013 / Last Updated: Jun 13, 2017

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

ページトップに戻る