天神の中心に、外壁に茶褐色の有田焼タイルが輝くオフィスビルがある。九州の高度成長のシンボル的存在だったこのビルの地下に、1930年創業・中洲の老舗天麩羅(天ぷら)店「酒宇」が、1960年のビル開業と同時に支店を出した。
それから50年超。開店当時の客を含め、美味いものを知る大人たちが、店主・茶野竜介さんが揚げる天麩羅を求めて、酒宇の暖簾をくぐる。
調理場を囲むカウンター席だけの店内では、天麩羅を揚げる音をバックミュージックに、揚げたての天麩羅が都度運ばれてくる。薄い衣をまとってカラッと風味豊かに揚がった天麩羅は、上品な歯ごたえ。その秘密は古くより高級食用油として重宝されてきた榧(かや)の実を搾った油。全国でも珍しい希少なカヤ油で揚げると、とにかく軽く腹にもたれない。高温のカヤ油で揚げて加熱脱水(食材の水分が飛んで旨味が凝縮された)状態になった季節の魚介や野菜を、昆布と鰹の出汁と醤油、キレのある甘味を加えるザラメ糖で味を整えた天つゆにつけていただこう。
白飯、赤出汁、お茶など、同店で提供される品々はどれも美味いことも添えておく。厳選した食材に色々と加えるのではなく、旨味を最大限に引き出す調理方法をたいせつにする日本料理・天麩羅、そして店主の精神が、長きにわたって同店が愛される理由だろう。気軽に入ることができる店構えでこのクオリティ。福岡を訪れるなら一度は足を運んでもらいたい。
メニュー:
竹定食(海老2尾、魚介2種、トンマ、ごぼうのかき揚げ、野菜3種、ご飯・赤出汁・漬物)¥2,600、天丼(海老2尾、ごぼうのかき揚げ、大葉、赤出汁・漬物)¥1,300、昼天定食(魚介2品、野菜4品、ご飯・赤出汁・漬物 *〜15:00数量限定)¥1,530
Originally published in Fukuoka Now Magazine (fn217, Jan. 2017)