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眠れる美女たち 〜通勤者の叙情詩〜

国人から見ると、日本の洗練された社会規範において、公共の場で眠ることはタブーだと思ってたわ。でも、実際に旅して自分で見てみると、うたた寝が事実上禁止されていないことに気がつくはず。しかも単独での行為でなく、多くの日本人が好む傾向にあるから連鎖反応を起こしやすいの。

私は西海岸から来たんだけど、地元のL.A.では、ひどい交通や信頼性の低い公共交通機関にも関わらず、うっかり夜遅くまでおしゃべりに高じてしまった人なんかを稀にみかけても、財布をとられる被害にあいたくないから眠ったりしないわよ。少なくともアメリカの南西部では、通勤途中に眠るなんて危険なことなの。そんな文化圏と比べて、福岡の始発電車はまるで居眠りカプセル(笑)。乗客がたてる寝息や鼻息で車内は忙しいわ。携帯電話で話すことは禁止されているのに、寝てる間にたてる音なら許されるみたい。そういえば以前、通勤途中で面白い光景をみたわ。若い男性が隣りに座る若い女性にもたれかかるようにして寝ていたの。彼の頭が波打ったり、隣りの女性の肩に付いちゃうくらい揺れながら頭が下がる様子を、まるで彼の遊戯を見ているように眺めちゃった。隣りに座る彼女の反応もまるで振り付けされたダンスみたいに、彼が揺れると彼女も揺れ、両隣りの乗客も含めて椅子とほぼ平行になるくらい上半身を倒しながら皆が揺れていたの。西海岸風にアプローチするなら、叫び声をあげるか、体を尖らせるようにして拒絶するけど、可哀想なその女性はしかめっ面して座ったまま、隣りからの重圧に耐えてたわ。彼女は集団との調和を維持するために我慢していたんだと思う。これこそ究極の無私無欲!

この日本人の習性「公共での居眠現象」に気付いているのは私だけではないのよ。インターネット上には、電車の座席で寝そべる通勤者や噴水に覆いかぶさるように寝ている人、オフィスの椅子で脚を広げて寝ている人に、丼を覗き込むような姿で居眠りする人の姿など、散々出回っているわ。でもどうして日本人はそんなに疲れているの?

説明のひとつには「小柄な国民の成功」があげられるみたい。日本は世界で3番目に大きな経済市場を有しているのに、完全失業率はわずか4.6%(総務省「労働力調査」2012年1月)。確かに日本人はよく働いているわね。でも、日本の労働文化は残業を楽しむ風潮があるのも事実。多くのサラリーマンは、朝早くから、同じく仕事中毒の上司が会社を出る時間までオフィスにいることを期待されているし。現状維持が重要で、遅くまで残る従業員が最も熱心で貴重だと思われているからよ。さらには、居酒屋で職場の話を持ち込んで遅くまで飲み明かすことには、根強い飲酒文化が貢献しちゃっているし。学生や教師も、サラリーマン同様に目的を達成するためには学校の厳しいスケジュールに耐えるけど、働いているなら尚さら価値があるとされているみたいね。だから居眠りは、勤労の後のちょっとした休憩のような位置づけなのよ。「褒美は不快な10分の睡眠!」一部の人は「過ぎたるは及ばざるがごとし」っていうかもしれないからね。

印象的な完全失業率とGDPとは裏腹に、日本は世界で最も自殺率の高い国のひとつでもあることも忘れないで。長い労働時間が、家庭を顧みる時間を侵しているとも言えるんじゃないかな。事実、日本の人口は減少しているし、増加傾向にある胃がんや鬱病の発症数に、不眠といった健康被害もあながち無視できないわ。現在、私はこれらのテーマ全てを理解しているわけではいないけど、素人目には解りにくい社会的圧力があることくらいは分かるわ。

でもみんな聞いて。1日6~8時間は家庭で過ごそうよ!睡眠は布団の上の方がはるかに快適で効果的よ!そんなに一生懸命働いているんだから、それくらいして当然だと思うわ。ね!ドォーデショ?

ジャミナ・オブデ − アメリカ合衆国 英語講師
Originally published in Fukuoka Now Magazine (fn160, Mar. 2012)

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Fukuoka City
Published: Mar 29, 2012 / Last Updated: Jun 13, 2017

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