その動きを止めてから長い歳月が経つ古い掛け時計、昔の職人はさすがだと思わせる見事な欄間、柱の傷、キシみそうな階段、そんな歴史を物語るひとつひとつが存在感を与える古い1軒屋。そこに新たな息吹が吹き込まれ“懐かしくて新鮮”なダイニングバーが生まれた。しかもここは歓楽街・中洲だ。華やかなネオンに紛れて見落としそうな狭い狭い間口から、約60センチの細い通路を抜けると貴重な昭和の置きみやげ・日本家屋が現れる。昭和30年代には料亭として使われていた建物も、ここ10年以上住む人もなく周囲の喧騒をよそにひっそりと佇んでいたという。誰にも気付かれることなく。「ねぇ、中洲にこんな場所があるなんて思わないでしょ。でもあったんですよね」とオーナーの山口さんが嬉しそうに目をやったその先には、彼が“一目惚れ”したという中庭が見える。四季をしっかりと映し出すこの庭の、ぼんやりと光をうけて浮かび上がる灯籠を眺めていると、時間の経過など気にならなくなってしまう。 さらに、純和風なこの雰囲気に加えられたのが、意外にも洋のエッセンス。アメリカンダイニングを意識したイスとテーブル、多国籍にわたる料理メニュー・・・と、一見ミスマッチとも思えるこの組み合わせも不思議な調和を醸し出して、堅苦しさを取り払ってくれている。“中洲だから”だなんて先入観を持たずに足を運んでみれば、この空間が演出する温かな雰囲気に、時間も場所も忘れてタイムトリップできるはず。ぜひ、大切な人との次の約束をここで過ごしてみては。
Nakasu Dining
福岡市博多区中洲2-6-3
092-283-5338
営業時間: 18:00~3:00(フードOS2:00)
休み: 日祝日
料金: チャージなし。生ビール 600円、カクテル 700円~、スプリングロール(生春巻) 700円、まぐろバーガー 700円、海老と野菜のチリマヨネーズ炒め 800円
Originally published in Fukuoka Now magazine (fn53, May 2003)