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世界が注目するアジアのアートと福岡のアートシーン

たちが暮らすアジアの現代アートは、欧米からの影響を受けて発展してきた世界共通のテーマで作られるものもあれば、伝統的手法や文化を継承しながら現代を表現する作品もあり、多様性というテーマからも世界的に注目を集める存在です。

アートの潮流を生み出すアートフェアでも欧米一辺倒だった時代は終わり、フリーズ・ソウル(韓国)やART SG(シンガポール)など、新しい国際的なアートフェアがアジアで立ち上がりました。これは、世界的な規模でアジアのアート市場に注目も資金も集まっていることを意味します。

グローバル化が進み、多様性が尊重され、極めて個人的なことからローカルなもの、そして社会問題に対するメッセージまで、国際社会へ向けて多様に発信されています。これらのメッセージを発信する媒体としてもアートが用いられ、表現手法も映像やオブジェ、インスタレーションなどへと拡大しています。

福岡市でも、グローバル化を捉えたまちづくりの一環として、彩りにあふれたアートのまちをめざす取り組み「Fukuoka Art Next(FaN)」を2022年から積極的に進めています。舞鶴公園にアーティスト支援施設「Artist Cafe Fukuoka」を新設し、福岡アジア美術館が開館以来行っているアーティスト・イン・レジデンス事業を拡大、そして「アートフェアアジア福岡」の官民共同開催、「FaN Week」と名づけられたアートイベント開催などが事業として行われています。

Art Fair Asia Fukuoka, アートフェアアジア福岡

福岡で昨年秋に開催された「アートフェアアジア福岡2023」では、過去最多となる1万人超の来場者で賑わい、国内外126の出展者による展示でフェア全体の取引総額が3億円を突破し、大成功を収めました。

福岡のアートヒストリー

福岡は、地理的に朝鮮半島に近く、古来より人や文化が往来するアジアとの交流拠点です。1979年に開館した福岡市美術館の開館記念特別企画展は「近代アジアの美術―インド・中国・日本―」でした。その後も、アジア美術の独自性や固有の美意識を示す作品をリサーチ・収集し、定期的に「アジア美術展」を開催していました。

そして1999年、福岡市美術館での蓄積を活かし、アジアの近現代の美術作品を系統的に収集し展示する世界に唯一の美術館として誕生したのが福岡アジア美術館です。開館記念は、それまで行われていた「アジア美術展」を発展させた「第1回福岡アジア美術トリエンナーレ1999(第5回アジア美術展)」を行いました。

Fukuoka Asian Art Museum, 福岡アジア美術館

1990年頃のアート界は「インスタレーション」が新しい表現方法として広がっていて、美術館やギャラリーの中ではなく、街中に作品を展開しようという機運がありました。天神の街の中で現代美術作品を展示するプロジェクトイベント「ミュージアム・シティ・天神」が誕生しました。初回の1990年は行政や民間企業が支援し、デパート、公園、市役所の一角などを会場に、約1カ月半の会期で作品展示が行われました。それから2年おきに2000年まで開催され、1998年から2000年は文化庁の支援を受け、アーティスト・イン・レジデンスも実施されました。

The Art of Asia Attracting Global Attention and Fukuoka's Art Scene, 世界が注目するアジアのアートと福岡のアートシーンナイジェル・ロルフ「昼から夜へ」 (1992 現・赤煉瓦文化館)
画像提供:ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局

工事現場だらけだった1992年の天神で開催された「ミュージアム・シティ・天神」では、多くの作品が仮囲いに展示されました。ナイジェル・ロルフによる大きな写真作品は、赤煉瓦文化館改装中の仮設足場に展示されていました。2021年からは工事現場が多い街中の仮囲い等を作品発表の場として提供する「Fukuoka Wall Art Project」で多様なアートを鑑賞できます。

The Art of Asia Attracting Global Attention and Fukuoka's Art Scene, 世界が注目するアジアのアートと福岡のアートシーン草間彌生が初めて手がけた野外彫刻作品は、「ミュージアム・シティ・天神 ’94 Fukuoka, Japan」の出品作《南瓜》
画像提供:ミュージアム・シティ・プロジェクト事務局

2000年代に入ると、福岡では美術館以外にアーティスト・ラン・スペースと呼ばれるスペースが存在感を増していきます。その名の通りアーティスト自身がディレクターとなり運営するスペースのことで、現代美術の展示やレクチャー、音楽や映像のイベントなど表現方法も自由です。

2004年には、アジア美術館近くに「art space tetra」がオープンし、2009年には大名にギャラリーをもつ「konya2023」がグランドオープンしました(予め想定されていた2023年に建物が解体され閉館)。

The Art of Asia Attracting Global Attention and Fukuoka's Art Scene, 世界が注目するアジアのアートと福岡のアートシーン

2011年に九州新幹線が全線開通して博多駅がリニューアルされると、博多駅周辺と天神地区との2つの繁華街をつなぐ回遊性を考えて、街中の空き地や商業空間を使った「まちなかアートギャラリー」が、2011年から2014年まで開催されました。

その後は、2015年9月にソラリア西鉄ホテルの数部屋を会場に「アートフェアアジア福岡」(AFAF)が誕生します。2016年以降はホテルオークラ福岡などを会場に催され、作品を買って家に飾るアートファンが大幅に増えるきっかけを作りました。2020年はパンデミックの影響でスキップしたものの2021年から再開し、2023年秋は大規模開催の成功によって大きな注目を集めました。

Art Fair Asia Fukuoka, アートフェアアジア福岡

2024年。アジア美術館 開館25周年

従来の美術の枠にとらわれない、アジア美術の独自性や固有の美意識を示す作品を収集し、新たなアジア美術の価値を創造すること

これは福岡アジア美術館の基本理念です。他の美術館では対象から外れるアジア地域の民俗芸術や民族芸術、大衆芸術と呼ばれるものも収集や研究の対象となっているのも大きな特徴です。開館25周年記念展として行われている「福岡アジア美術館ベストコレクション」では、その特徴を存分に堪能することができます。

第一弾は、約5,000点のコレクションから選りすぐった10名24点の作品が展示されています(2024年4月9日まで)。
ここで紹介されている10名のアーティストは、現代に生きるアジア美術のオールスターとでも言うべき存在です。世界で活躍することで母国のアートの評価を国際的に高めたり、自国の先進的なアートシーンをリードしてきた彼らの作品は、アジアの伝統とグローバルなアートの潮流を融合させたもので、今のアジアのアートシーンに触れることができます。

ナリニ・マラニ 《略奪された岸辺》
Fukuoka Asian Art Museum, 福岡アジア美術館

7枚の絵画とその間の5面の白地にモノクロの人物などが描かれた、横幅10m超の平面作品です。植民地史の始まり、ギリシャ神話に基づく男女のドラマ、西洋文明による自然破壊、そして1992 年のムンバイ暴動が壮観な演劇のように描かれています。

ツァイ・グオチアン(蔡國強)《天地悠々:外星人のためのプロジェクト No. 11》
Fukuoka Asian Art Museum, 福岡アジア美術館

福岡市の香椎操車場跡(現 JR千早駅付近)で行われた火薬の爆発プロジェクトのドローイングとして制作されました。ツァイは、火薬画をはじめ、東洋と西洋の差異を超えた地球規模のメッセージを発信する世界的にも著名なアーティストで、1986年から1995年までは日本を拠点に活動し、福岡でも1990年と1991年にプロジェクトを行いました。

リン・ティエンミャオ(林天苗)《卵 #3》
Fukuoka Asian Art Museum, 福岡アジア美術館

丸坊主の女性像に丸い糸玉が大小さまざまに結びつけられています。 女性像は出産直後のアーティスト自身の写真で、糸玉は女性が一生のうちに排卵する卵子を表し、妊娠・出産・育児が 「女の仕事」と見なされる状況を伝えています。自らの経験を斬新に表現したこの作品は、中国における女性アーティストの台頭を象徴する作品でもあります。

第二弾のコレクション展:
福岡アジア美術館開館25周年記念コレクション展「アジアン・ポップ」
・2024年4月20日(土)〜9月3日(火)
https://faam.city.fukuoka.lg.jp/exhibition/20318/
広告やマスメディアなど大衆消費社会が生み出したイメージをシンボリックに表現に取り込み、時代や社会をアイロニカルに捉える「ポップアート」。国際的に活躍するアジアのアーティストが生み出したポップアートの作品を、アーティストが創作の源泉とした映画や商業ポスターなどのアジアの大衆美術と組み合わせて紹介します。

Fukuoka Asian Art Museum, 福岡アジア美術館メイ・ディンイー(梅丁衍)《トロツキーに捧ぐ》1991年

警固公園の地下がアジ美に?これからの福岡アジア美術館の役割

都心部のビルの建替えプロジェクト「天神ビッグバン」を受け、100以上のビル建て替えが進む天神地区の中心にある警固公園。2024年2月には「この地下にある駐車場が福岡アジア美術館の展示室になるかも?!」という報道が流れ話題となりました。所蔵品が増え、展示空間も手狭になった福岡アジア美術館の拡充場所が検討される中、候補先のひとつとして警固公園が候補にあがっています。

まちの変化や成長は、人々のライフスタイルや価値観にも影響を与えます。多様化が進み、アートをはじめ文化への関心度も高まります。思考もアート的思考と言われる既成概念にとらわれない自由な思考が尊重されるようになります。各界が「アジアのゲートウェイ」をキーワードにグローバル化を推進する中、福岡市ではアートフェアが成功をおさめ、ギャラリーが増え、アートに親しむ人が増えました。これは、その実績の一つがアートであると言えるでしょう。

今行われている福岡アジア美術館の25周年記念コレクション展は、これまでの25年のクライマックスであり、次のステージへ進むスイッチになるイベントです。アートを通じて人や地域が繋がり、団結させ、鼓舞し、啓発する…。地道に続けてきた活動の今後も楽しみでなりません。

福岡アジア美術館
https://faam.city.fukuoka.lg.jp/
福岡市博多区下川端町3-1リバレインセンタービル7・8F
・9:30〜18:00(金曜・土曜は20:00まで、ギャラリー入室は閉室30分前まで)
・休館:水曜(水曜が休日の場合はその翌平日)、12月26日〜1月1日

アジア美術館周辺のアートスポット

キャナルシティと繋がる昔ながらの風情が残る川端商店街を眼下に構えるビル、リバレインの上層階にあるアジア美術館。商店街の休憩所や近くにある櫛田神社には、博多の祭り「博多祇園山笠」の飾り山笠が常設展示されています。また、近隣には古くからの街並みが残り、アート関連施設も点在しています。

art space tetra
http://www.as-tetra.info/
福岡市博多区須崎町2-15
若手のアーティストやキュレーターたちが共同で管理運営をおこない、自主企画の展覧会やトークイベントなどを自在におこなっている。

リノベーションミュージアム 冷泉荘
https://www.reizensou.com/
福岡市博多区上川端町9-35
・事務局定休:火曜
もともと集合住宅として建てられた一棟まるごとオフィスビルへコンバージョンし、「ひと」「まち」「文化」を大切に思う人々が集まる集合アトリエ。美術教室、ギャラリー、イベントスペースなどがある。

アルタスギャラリー
https://artas.fun/gallery/
福岡市博多区店屋町4-8蝶和ビル205
冷泉公園近くのギャラリー。現代美術の企画展を開催。

WeBase博多
https://we-base.jp/hakata/about/
福岡市博多区店屋町5-9
現代美術作家ヤノベケンジが制作した猫をモチーフとする『SHIP’S CAT』が存在感を放つホテル。

WeBase Hakata, WeBase博多

Fukuoka Now x Fukuoka City

Category
Art & Culture
Places
Fukuoka City
Published: Mar 26, 2024 / Last Updated: Mar 26, 2024

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