欧米の都市と比較すると、日本の都市計画は後回しにされているように見えるかもしれません。区画が整理されないまま雑然とした印象の場所もあります。しかし、少し掘り下げてみると、市民の福祉向上のために継続した取り組みを見つけることができます。
私が福岡に引っ越してきた1990年は、百道浜の埋立が終わり、シーサイドももちが誕生したばかりの頃でした。福岡において日本の都市生活の新たなスタンダードを築こうとする大胆な動きを感じられたことも、私が移住を決心した要因のひとつでした。さらには、福岡には全国に先駆けた都市計画の歴史もありました。普段はあまり語られることのない、福岡のまちづくりについての歴史と未来について紹介します。
Fukuoka Now編集長
ニック・サーズ
今や、日本の人々が住みたい・働きたいと思う都市ランキングの上位常連で、日本の大都市の中で最も高い人口増加数・増加率を誇る福岡市(2022年8月時点の人口は約163万人)。目指す都市像として2012年に「住みたい、行きたい、働きたい。アジアの交流拠点都市・福岡」を掲げ、現在はこの都市像実現の途上にあります。
元気があるまちとして国内外から注目される福岡市が誕生したのは、今から166年前の1889年4月。当時の人口は50,847人、面積も5.09km2で現在の市域343.47km2の1.48%程度の小さなまちでしたが、後に周辺の町村を編入して戦前には人口も九州一となり、九州の中枢都市としての地位を確立していました。
戦争では、1945年6月19日の空襲により福岡市の中心部が焼け野原になりましたが、「その将来には多大の繁栄が期待されている(1947年市勢要覧)」と前向きなメッセージで、人口を倍以上にしていこうとする具体的な将来像が市民に向けて示されました。
また、福岡市は1961年に全国に先駆けて『総合計画書』(マスタープラン)を策定します。目指すべき都市像として「弱い工業を育成し、2・3次産業間にバランスの取れた総合都市化」を掲げますが、それから5年後に出された第1次改定の『総合計画書』では、「単なる工業導入偏重をさけ、九州の管理中枢都市としての都市機能充実と、市民の身近かな生活・文化基盤の強化」を中心におき、工業化から一歩引き、市民の暮らしや文化に触れられるようになりました。
そして1987年には、アジアを主眼においた都市形成のコンセプトを打ち出し、あるべき都市像として「活力あるアジアの拠点都市」を掲げました。市政100周年を記念して1989年に開催された「アジア太平洋博覧会」では、九州や日本だけでなくアジアとの関わりを意識した福岡市のあり方を内外に知らしめます。
アジアに近い立地を生かした国内外の拠点としての役割を果たす博多港、福岡空港は共に拡充を続け、1993年に博多港国際ターミナル、1999年に国際線旅客ターミナルビル、そして2015年に中央ふ頭クルーズセンターがそれぞれ供用開始され、国内外からの人の直接往来が盛んとなるゲートを開きます。
近年の躍進目覚ましい福岡を方向づけるきっかけとなったのは、2010年に福岡で開催された国際会議。成長している世界的な都市が、自治体という単位から、経済圏を構成する産学官民連携での取り組みに移行している傾向をいち早く読み取り、2011年に産学官連携組織「福岡地域戦略推進協議会」を立ち上げました。国際競争力強化による福岡都市圏の持続的な成長を設立趣旨に掲げ、今も福岡の成長戦略を産学官連携で牽引しています。
ビジネスなど都市間交流を活性化し、国内外の拠点として多様な人々が暮らす都市、そしてチャレンジする人が尊敬される社会を目指し、2012年には「スタートアップ都市ふくおか宣言」を行い、日本国内ではいち早くスタートアップに力を入れます。
“世界で一番ビジネスをしやすい環境”を作ることを目的に、地域や分野を限定して大胆な規制・制度の緩和や税制面の優遇を行う国の規制改革制度「国家戦略特区」が2014年に始まると、福岡市は「福岡市グローバル創業・雇用創出特区」として一番に指定を受けます。現在、東京圏、関西圏など全国で10区域が国家戦略特区として指定されていますが、福岡市(後に北九州市が指定)は九州で指定された唯一の都市として、スタートアップビザ、スタートアップ法人減税、航空法の高さ制限のエリア単位での特例承認など、革新的な規制改革を次々と行い、新しいプログラムも多数立ち上げます。
2014年に創業相談からその後の人材確保までワンストップで支援する拠点「スタートアップカフェ」をブックストア内に作り、2017年にインキュベート施設やスタートアップカフェを集約したスタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」を立ち上げました。福岡市は、2013年〜2015年、そして、2018年から3年連続して新規開業率が日本一です。
現在再開発が活発に行われている「天神ビッグバン」も、アジアの拠点都市としての役割と機能を高め、新たな空間と雇用を創出するための施策の一つ。対象となる明治通りを中心に、天神交差点から半径500m程のエリアでは、2026年までに約70棟が竣工予定です。
日本各地・アジア各都市と繋がる福岡空港まで、九州各地と新幹線で繋がる博多駅からは地下鉄でわずか5分、天神からは10分。現在、日本の人々が住みたい、働きたいと思う都市ランキングでも1位を獲得しています。
* 2021年度の福岡市民に向けた市政に関する意識調査では、住みやすさについては97.7%の市民が福岡市のことが好きで、96.5%が「住みやすい」と回答(福岡市調べ)
その時々で都市が抱える課題や市民の意識を反映した「目指す都市像」を随時アップデートし、市民にもわかりやすく示しながら、まちづくりを進めてきた福岡市。
現在は、国家戦略特区を活用して規制改革や福岡市独自の施策を組み合わせ、新しい価値の創造にチャレンジする企業を支援しています。
福岡市 – Right Placeシリーズ 目次…
・福岡市 – Right Time, Right Place(ちょうどいいタイミングとちょうどいい場所)
・目指す都市像を随時アップデートしながら成長する街、福岡 ←イマココ
・福岡。ここを選んで暮らすことがウェルネス
・ライフスタイルを大切にして暮らそう
・福岡市って実際どんなところ? 福岡に住む外国人の声
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